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その3
by 後藤 修身
目 次
出発 / 国境の町

賭博場

道路工事



ナンカンの美女



日本人の果樹園



中国に行きたく
なかった大仏


道路工事

 ちょっとしたいざこざのあったパンサインからムセへと帰る途中、道路工事の現場があった。石をハンマーで砕き、舗装用の小石にする。それを敷き詰めてアスファルトを流し込んでいた。工事機械というとローラー車があるぐらいで、多くは人力に頼っている。工事責任者に聞くと、全員メティラからやってきたビルマ族だという。メティラのそれも同じ地区に住む人たちが、テント暮らしをしながら道路工事をやっている。全員で48名、ムセからパンサインの区間を11月から1月の間に工事をするそうだ。1マイルあたり、アスファルト工事は別にして、20万チャット(5万円)以上支払われる。それをみんなで分けるのである。一般の日本人から見るとただ働きといってもいい額であるが、現金収入の得られる仕事が少ないビルマでは、この程度の収入でも恵まれているといえる。

 彼らのように、同じ地域からやってきた人たちでひとつの現場で働いてるというのは他の場所でもいくつか見た。ムセのビル建設の現場で作業をしていたマンダレーの人たち。バガンのパゴダ修復(これを修復と言えるかどうかは疑問だが)をやっていたパコグーの人たち。場所によって違うが、同じ工事現場には数ヶ月滞在するようだ。彼らは家族でやってきて、現場近くのテントで煮炊きをしながら共同生活をしている。その現場が終わると田舎に帰る人もいるし、仕事が他にあればまたそこへ行く人たちもいる。

 金のないビルマ政府は、この工事を一般的な公共事業ではなく、民間資本を活用した公共事業として行った。BTO方式である。できあがった道路は有料道路で、その料金徴収も工事を行った企業がやる。実際に道路事業を請け負った会社は2社あったが、そのひとつの会社がアジアワールドという会社だ。このアジアワールドという会社、社長はローシンハンの息子と言われている。

 日本も含め海外では、麻薬王といえばクンサであるが、ビルマ国内ではローシンハンのほうが有名である。シャン州東北部にコーカンという地域(民族)があるが、そのコーカンで麻薬王として名をはせたのがローシンハン、数々の伝説を持つ男である。民族的にはこのコーカンは漢民族だといわれている。以前は、ビルマ共産党と一緒に政府軍と戦いつつ、麻薬生産にも手を染めていた。88年のクーデターから間もない時期、軍政は国内をできるだけ早くまとめたかった。それで、停戦をまとめるため民族軍に有利な条件を国軍は提示していた。コーカンも停戦条件として、多くの利権を得た。今では麻薬からも手を引き、合法的な数々のビジネスを行っているという。アジアワールドはそうした会社の中のひとつで、息子のトゥンミィンナインが経営者だという。この会社がビルマ公路の工事を請け負ったのだ。現在、この道路には料金徴収所が6ヶ所あり、そのうちの5ヶ所の通行料金徴収の権利を持っているのがアジアワールドだという。

 こういう経緯からして、ビルマ公路の工事はマネーロンダリングだと言われてもおかしくないし、実際そうした指摘が海外からある。では、地元の評判はどうであろうか。麻薬に絡んだ会社だからきっと評判は悪いに違いないと私は思っていた。しかし、私の想像は見事に外れた。それほど評判は悪くなかったのだ。それどころか、同じく工事を請け負ったもう一社と比較すると、アジアワールドのほうがずっとまともに仕事を行ったという。こと道路工事の仕事に着目した場合、この会社、ビルマの会社の中ではまともな会社のようだ。たしかに、マンダレーからムセまで実際に走って、この国で最もいい道路だと実感したのは私自身であった。

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