幻の長距離列車チケット

ヤンゴン生活,

4月5日の朝4時、ヤンゴン中央駅に向かった。4月8日のバガン行きの長距離列車のチケットを買いに行くためだ。ミャンマーでは長距離列車のチケットを売り出すのは3日前、ヤンゴン中央駅の長距離列車チケット売り場に直接買いに行かなければいけないからだ。

4月8日はダジャン(ティンジャン, 水かけ祭り)の連休前で、列車は非常に混む。日本の年末のJRのチケットを買うようなものだ。買えるかどうか心配だったので、前もって3月27日にチケット売り場まで来て確認した。窓口の係員の話では、3日前の早朝に来ればだいじょうぶだということだった。念を押したが、だいじょうぶだいじょうぶという返事だった。

4時20分ごろチケット売り場前に着いた。チケット売り場はヤンゴン中央駅の中ではなく、さくらタワーの斜め前にある。既に30人ほど門の前に人が集まっていた。この門は5時に開くということで、おとなしく待った。5時には100人近くになった。門が開くとわれ先にとみんな駆け出した。

早朝4時20分にチケット売り場前に集まった人たち
早朝4時20分にチケット売り場前に集まった人たち
チケット売り場はさくらタワーの斜め前
チケット売り場はさくらタワーの斜め前

窓口は行き先別に分かれている。バガン方面行きは一番奥、私と連れは列の2番目になった。おお、これだったら絶対に買えると安心した。目の前に予約状況を書いたホワイトボードがあった。

行き先別に分かれた窓口
行き先別に分かれた窓口

えーと、寝台寝台。6日は残り8枚,結構残ってるな。7日は残り2枚残っているのか。8日は? 数字じゃないぞ、「マシー」と書いている。もしかして「無し」の意味?。回りの何人かのミャンマー人に確認しても、この表示は「無し」だった。

8日の寝台は「無し」との表示
8日の寝台は「無し」との表示

何で? 今日売り出しでまだ誰も買ってない状態で無し? 他のチケットも全くなかったり、残りが2枚だったり。これはおかしいと、みんなざわついてきた。窓口が開くのは7時、まだ2時間近く時間がある。目の前の窓口に小さくチケット売り場の連絡先が書かれていた。電話してみた。時間が時間なので誰も出ないと思ったが、男性の返事があった。「自分じゃわからない。窓口が開いたら聞いてみてくれ」との返事。しょうがない、待つしかない。

7時になり、窓口が開いた。私の前に並んでいた人はバガン行きの普通チケット。2枚残っていたので買えた。そして私の番になった。

「8日の寝台を2枚ください」
「ありません」
「何で? 今日売りだしたばかりでしょ。何でないの?」
「私はわからない。責任者に聞いてくれ」
何度聞いてもだめだった。しかたがないので残っていた7日のチケットを2枚買い、窓口の中にいるという責任者に会うことにした。

窓口の中に入った
窓口の中に入った

出てきたのは50才くらいの小太りの真面目そうな人だった。チケット売り場の責任者だという。
「なぜ8日の寝台車のチケットが1枚もないんですか?」
「もう売り切れてたんです」
「えっ! 売り始める前に売り切れ? どういうこと?」
「公務員や外国人には事前に売っているんです」
「そんなの初めて聞いた。駅のどこにそんなことを掲示しているんですか? WEBサイトに書いているんですか?」
「どこにも書いていません。でも、昔からそうなっているです」
「昔は外国人の料金は高かったけど今は同じ、公務員も同じ料金でしょう。なぜ優遇するんですか?」
「政府が変わってまだ間もないんです。だからこのシステムも変わってないんです。理解してください」

はしょって書いたが、ここまで20分ほど。責任者がちょっと弱気になってきた。でも、理解力のない私はしつこく食い下がった。と、突然、
「実は8日のチケットが2枚あります。あなたを助けたいので、7日のチケットと交換しましょう」

これには驚いた。一瞬、ありがとう! と返事をしそうになったのをぐっと抑え、
「今までないと言っていたチケットが何であるんですか。そんなのはもらえません!」

このチケット、本当は喉から手が出るほど欲しかった。でも、ここまで正論ばかり言った手前、私だけチケットをもらうわけにはいかない。もらったら私は単なるクレーマーになってしまう。そして、彼から出てきた言葉は
「レーザーデ」

尊敬するという意味だ。私はそんな人間ではない。ただ、引っ込みがつかなくなってやせ我慢しているだけだ。それに、私もちょっと言い過ぎたかもしれない。最後は責任者と握手をして事務所を後にした。真っ暗だったチケット売り場も朝日が当たりすっかり明るくなっていた。

それにしても、あの8日のチケット欲しかった・・・

チケット売り場はすっかり明るくなっていた
チケット売り場はすっかり明るくなっていた

ヤンゴン生活,

Posted by 後藤 修身