習近平はなぜ「ミスター・くその穴」になったか

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最近は友人と一緒に運営しているエンヤンブログのほうにばかり書いていたので、エヤワディBlogは4年ぶりとなった。これからは、ちょっとやばそうなネタはここに書くことにする。

さて、最近ミャンマーネタで話題になっているのが、習近平のFacebook誤訳問題だ。ついこの間、習近平がミャンマーを訪問したので、Facebookにも彼の名前がたくさん出てきた。Facebookには自動翻訳機能が付いているので、ミャンマー語(ビルマ語)の記事も英語や日本語に翻訳できる。そこで、習近平についてのミャンマー語記事を英語に自動翻訳すると、彼の名前が「Mr Shithole」と訳されたというのだ。

英語辞書で Shithole を調べると、「非常に汚い場所、肛門」などと出てくる。私も実際にこの目でFacebook翻訳を見てみようと思ったが、なぜか2、3日前まで使えていたビルマ語の自動翻訳が使えなくなっている。英語から日本語の自動翻訳は使えるのにビルマ語の自動翻訳が使えないというのは、今回の問題が起きたため、急遽ミャンマー語の翻訳を調整中なんだろう。

本来、「続きを読む」の後に「翻訳を見る」というのが出てくるはずが見当たらない。

それにしても、なぜこんな誤訳をしてしまったのか。AFPの記事
「習近平」を「ミスター・くその穴」に誤訳、FBが謝罪
によると、

同社のビルマ語の翻訳データに習氏の名前がないため、システムは音節を表す文字が似た言葉を推測し、置き換えているという。

フェイスブックがビルマ語の似た単語で試してみたところ、同じ文字が使われる「xi」と「shi」で始まる単語も「shithole」と翻訳された。

習近平という人名がFacebookのミャンマー語データベースに登録されていなかったのが一番の原因というのは理解できるが、「xi」と「shi」で始まる云々の説明はよくわからない。ということで自分で調べてみることにした。

「習近平」ミャンマー語で書くと ရှီကျင့်ဖျင် となる。これを音節ごとに分解していくと、ရှီ ကျင့် ဖျင် (シー チン ピン)だ。

頭の ရှီ という言葉はミャンマー語辞書にはないが、それに近い ရှိ といういうのがある。これは「ある、存在する」という意味の言葉だ。

次に、ကျင့် は大野徹先生の辞書によると「練習する、行う」だ。また、近い発音に ကျင် というのがあり、「疼く」や「糞」という意味がある。

最後の ဖျင် は、「刻む、綿布」だが、似た発音の ဖင် が「お尻、肛門」である。

元々の習近平のミャンマー語の綴りからすると「Shithole」に繋がる意味にはならないが、綴りを ရှီကျင်ဖင် とほんの少し変えるだけで「糞 肛門」などとかなりやばいことになる。ここではたと気がついた。もしかして、ミャンマー語で「習近平」と書くときにいくつかの綴り方があるのでは?

「習近平」がミャンマー語では ရှီကျင့်ဖျင် だと私が書いたのは、ミャンマー語版Wikipediaの習近平のページ やミャンマー政府関係のページにこれで載っているからだ。しかし、これ以外の書き方があるかもということで、Google検索で探してみた。括弧内に書いているのは2音節目と3音節目の直訳で、数字はヒット数だ。

  1. “ရှီကျင့်ဖျင်" (練習する | 刻む) 54,200
  2. “ရှီကျင့်ဖင်" (練習する | 肛門)801
  3. “ရှီကျင်ဖင်" (糞 | 肛門)23
  4. “ရှီကျင်ဖျင်" (糞 | 刻む)278

思っていたより1番目が圧倒的に多かった。となると、違う綴りで書いたためにFacebook翻訳がやばい誤訳をしたのではという推測は違ったようだ。

結局、習近平をミャンマー語で書いたときの各音節の意味が、たまたま糞やら肛門やらの単語と綴りが近かったので誤訳が生じたのだろう。

ただ、気になるのは習近平の文字の前に တရုတ် သမ္မတ (中国 国家元首)という表記があるのにこんな訳になってしまっていることだ。最近の自動翻訳はGoogleもFacebookもAI化していて前後の文脈も考慮しているし、多くの人たちの実際に使っている言葉を自動的に収集し、自分で学習するようになっている。それで、最近の自動翻訳は以前と比べて飛躍的に性能が向上したのだ。なのに、こんな訳になるとは?

そういや、中国で「AIの反乱」というのが2017年にあった。中国国内でユーザーと会話のできるシャオピンとBaby Qと名付けられたAIチャットサービスが生まれた。これを利用したユーザーが政治問題に話題を向けると、共産党のことを腐敗して無能な政党などと、AIチャット自身が共産党批判を始めたという。

このAIチャット、シャオピンとBaby Qは、中国人が実際にチャットした多くのデータをもとに自ら学習して成長したものだ。ということは、共産党批判は中国人の心を反映したものとも言える。

今回のFacebookの誤訳問題も、もしかして習近平に対するミャンマー人の心の中の思いが反映したのかもしれない。と、勝手に想像してしまった。