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 若い女性たちがみんなこちらを振り向きニコニコ笑っている。手を振ると向こうもキャッキャいいながら手を振り返してくる。これほどロンジー姿がもてるとは思ってなかった。
 ここはインドネシア第二の都市、スラバヤ。日本人の友人がインドネシア人の女の子と結婚式を挙げるのというのでここまでやって来たのだ。最近5年ほど、私はミャンマーばかり行っているので他の国はひさしぶり。インドネシアは初めてだ。二日後に結婚式を控えた日。新郎新婦と日本からやって来たもう一人の友人と一緒に、とあるデパートにやってきた。インドネシアも暑い。暑いとなればロンジーということで、日本から持ってきたロンジー姿でデパート散策となった。
 インドネシアにもロンジーと似たサロンというものがある。写真で何度か見たことはある。インドネシアに来る前はこの国でもサロン姿の人たちが歩いているだろうと思っていたのだが、なんとなんと、ここインドネシアの都会スラバヤではほとんど見かけない。バンコクを想像してもらえばいいだろう。だが、バンコクでもロンジーで過ごしている私は躊躇なくロンジーを選んでしまった。で、最初に書いたモテモテぶりだったのだ。
 最初はデパートガールたちの歓迎振りに喜んでいた私であった。でも、なんかちょっとおかしい。私が歩き回る先々、全ての女性たちが振りかえり、じっと私を見て笑い出す。そう、「全て」の女性だ。これはあまりにも注目されすぎだ。何か私の知らない秘密があるに違いない。ひときわ大声で笑っているデパートガールたちに近づいた。
「私の格好、おかしい?」
「え? だ、だって、サロンをはくのはおじいちゃんぐらいだもの」
「そんなことぐらいで、みんなで大笑いするの?」
「ムニャムニャ・・・」
サロンの秘密を探り出そうと思ったがはぐらかされてしまった。大いなる秘密があるに違いない。このとき私は一人でデパート散策をしていた。新婦となるインドネシア人の彼女に聞いてみよう。ということで、しばらく探しまわった。
 やっと見つけ出した彼女は秘密を語るのを最初は躊躇したが、語り始めた。
「インドネシアでは男の子は小さいときに割礼をするの。割礼をしてしばらくはズボンをはくのが痛いので、そのときだけはサロンをはくのよ。」
「えー! で、でも、サロンをはいてデパートに来る人もいるでしょう?」
「そんな人いない。ゼロパーセント!」
なんだーー!!
そんなことだったら来る前に教えろよ。今更そんなこと言われても・・・。
 私はすっかり「割礼おじさん」になってしまっていた。彼女も私と一緒にいるのが恥ずかしいので、しばらく離れていたという。どうりで、デパートに来てすぐ彼女がいなくなったわけだ。そんな秘密があることを知らなかったのはスラバヤで私ひとり。デパートのおねえ様方からもてていると勘違いして、嬉々としてそこら中歩き回っていたのだ。といっても、それでしょげ返る私ではない。どうであれ、大勢の女の子たちから注目を浴びるのは気持ちがいいものだ。ここではもう有名人。次に訪れる機会があったらきっと彼女たちも覚えてくれているだろう。
 インドネシアはイスラムの国。割礼があったのを忘れていた。それにしても、割礼後の少年とおじいさんしかサロンをはかないとは知らなかった。町を歩いても女性を含めほとんどサロン姿は見かけない。ヤンゴンとはえらい違いだ。それでも田舎に行くとサロン姿もちょくちょく見るという。タイと同じだ。経済発展とサロン着用率が反比例しているのだろう。ということは、今のミャンマーは経済的に非常に遅れていて、そのうち経済発展と共にロンジー姿が少なくなるということか。それとも高層ビルとロンジーが調和した町へと向かうのであろうか。ロンジー一枚で面白い体験をし、また考えてしまった。
 そうそう、みなさんも東南アジアへ行くときは旅の友ロンジーをお忘れなく。


文 後藤修身 (1999年)

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